東京地方裁判所 平成10年(ワ)25787号 判決 2000年1月28日
原告
コロナ産業株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
川田敏郎
右補佐人弁理士
B
被告
北辰商事株式会社
右代表者代表取締役
C
右訴訟代理人弁護士
平田達
同
小松美七七男
同
守谷俊宏
被告
株式会社吉祥寺ユザワヤ
右代表者代表取締役
D
右訴訟代理人弁護士
淺井洋
右補佐人弁理士
E
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、別紙物件目録記載の接続構造(以下「イ号物件」という。)を使用した装飾用電灯を販売してはならない。
二 被告らは、原告に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲記載の発明を「本件発明」という。)を有している。
登録番号 第二六一四九九二号
発明の名称 装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造
出願日 平成二年六月二九日
公開日 平成七年一〇月三日
登録日 平成九年二月二七日
特許請求の範囲
「 ソケット本体内に組み付けられる導電性金属板製の端子板と、この端子板に接続された被覆外皮付きコード線とからなり、前記端子板は、本体部と、この本体部に続く基端部と、この基端部に形成された左右二対の第一折り曲げ部および第二折り曲げ部を備え、前記第一折り曲げ部によって前記コード線の導線を基端部に圧接して接続し、第二折り曲げ部によってコード線の被覆外皮を保持した構成の装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造において、前記端子板の第一折り曲げ部の、前記被覆外皮側の端部には、前記コード線の被覆外皮の終端を形成する面に当接するストッパが設けられ、かつ当該ストッパは、第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する形状であることを特徴とする装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造。」
2 本件発明の構成要件は、以下のとおり分説される(弁論の全趣旨)。
(一) ソケット本体内に組み付けられる導電性金属板製の端子板と、この端子板に接続された被覆外皮付きコード線とからなり、前記端子板は、本体部と、この本体部に続く基端部と、この基端部に形成された左右二対の第一折り曲げ部および第二折り曲げ部を備え、前記第一折り曲げ部によって前記コード線の導線を基端部に圧接して接続し、第二折り曲げ部によってコード線の被覆外皮を保持した構成の装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造において、
(二) 前記端子板の第一折り曲げ部の、前記被覆外皮側の端部には、前記コード線の被覆外皮の終端を形成する面に当接するストッパが設けられ、
(三) かつ当該ストッパは、第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する形状であることを特徴とする装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造。
3 本件発明の作用効果は、次のとおりである(甲一)。
ストッパが、第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する構成であるから、従来のように折り曲げ部の縁部が鋭角な接触になるのを防止して導線や被覆外皮を傷付けたり、被覆外皮に深く食い込んだりするのを防止すると同時に、被覆外皮の端面に当接してこれを位置決めする。
端子板とコード線の接続がより安定的で、被膜外皮が位置ずれしたりすることなく、かつ導線や被膜外皮等も損傷し難いようにすることができる。
4 被告らは、装飾用電灯を販売している。
5 被告らの販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造は、本件発明の構成要件(一)を充足する(弁論の全趣旨)。
二 本件は、本件特許権を有している原告が、被告らに対し、イ号物件を使用した装飾用電灯の販売の差止めを求めるとともに、特許権侵害による損害の賠償を求める事案である。
第三争点及びこれに関する当事者の主張
一 争点
1 被告らの販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造の特定
2 被告らの販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造が、構成要件(二)及び(三)を充足するか
3 被告らの販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造が、本件発明の作用効果を奏するか
4 損害の発生及び額
二 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(原告の主張)
被告らの販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造は、別紙物件目録のように特定される。
(被告らの主張)
原告の右主張は否認する。
2 争点2について
(原告の主張)
イ号物件の第一折り曲げ部の被覆外皮に近い端部付近は、漏斗状に拡径された縁部が形成され、かつ、その先端は、被覆外皮の終端を形成する面に当接している。また、右当接部分は、第一の折り曲げ部の板厚よりも大きな面になっている。
したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件(二)及び(三)を充足する。
(被告らの主張)
被告らが販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造には、「第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する形状のストッパ」は、存在しない。
3 争点3について
(被告株式会社吉祥寺ユザワヤ(以下「被告吉祥寺ユザワヤ」という。)の主張)被告吉祥寺ユザワヤの販売している装飾用電灯においては、端子板をソケットに装着する際、ソケット本体と端子板の摩擦抵抗は全くないので、コード線の端部が端子板側へ位置ずれすることは全くない。したがって、位置ずれを起こすことを前提とする本件発明の作用効果を奏しない。
(被告北辰商事株式会社(以下「被告北辰商事」という。)の主張)被告北辰商事の販売している装飾用電灯の端子板とコード線の接続構造においては、第二折り曲げ部により、周縁外皮部分が強固に挟持されていて、位置ずれを起こさないから、位置ずれを起こすことを前提とする本件発明の作用効果を奏しない。
(原告の主張)
被告らの右主張はいずれも否認する。
端子板をソケットに装着する際、摩擦抵抗が生じないということはないし、その他の原因で位置ずれすることもある。
第二折り曲げ部だけでは位置ずれを防止するには不十分である。
4 争点4について
(原告の主張)
(一) 被告北辰商事は、平成九年三月一日から平成一〇年一〇月三一日までの間に、イ号物件を使用した装飾用電灯を収納した三〇球入りセットを入れたクリスマスツリーセットを一セット当り四三八六円で五万セット販売した。したがって、その販売額は二億一九三〇万円となる。本件特許権の接続構造部分の寄与率は二〇パーセントと考えるべきであるから、右販売額に右寄与率を乗じた四三八六万円が本件特許権を侵害して販売した額になる。また、その利益率は、販売額の一五パーセントであるから、被告北辰商事は、右特許権侵害による販売額に右利益率を乗じた六五七万九〇〇〇円の利益を得た。
(二) 被告吉祥寺ユザワヤは、平成九年三月一日から平成一〇年一〇月三一日までの間に、イ号物件を使用した装飾用電灯を収納した二〇球入りセットを一セット当り二二六八円で二万セット、三〇球入りセットを一セット当り三四〇二円で二万セット、五〇球入りセットを一セット当り五六七〇円で一万五〇〇〇セットそれぞれ販売した。したがって、その販売額は、合計で一億九八四五万円となる。本件特許権の接続構造部分の寄与率は三〇パーセントと考えるべきであるから、右販売額に右寄与率を乗じた五九五三万五〇〇〇円が本件特許権を侵害して販売した額になる。また、その利益率は、販売額の一五パーセントであるから、被告吉祥寺ユザワヤは、右特許権侵害による販売額に右利益率を乗じた八九三万〇二五〇円の利益を得た。
(三) 原告は、被告らに対し、右損害額の内各五〇〇万円の支払をそれぞれ請求するものである。
(被告らの主張)
損害の発生及び額については争う。
第四当裁判所の判断
一 争点1ないし3について
(一) 証拠(検甲二の二、検甲三の二、甲四、五、八)と弁論の全趣旨によると、被告らの販売している昇宇有限公司製の装飾用電灯の端子板とコード線の接続部分の断面を、株式会社分析センターが金属顕微鏡を用いて撮影したこと、右撮影による写真のうち、昇宇有限公司の端子①の写真によると、右端子板の第一折り曲げ部の被覆外皮側の端部の一方は、先端のほぼ直角をなす角の一方が被覆外皮に食い込み、右端部の他方は、被覆外皮を挟み込み、その側部と接触していること、右撮影による写真のうち、昇宇有限公司の端子②の写真によると、右端部の一方は、先端のほぼ直角をなす角の一方が被覆外皮に食い込み、右端部の他方は被覆外皮と接触していないこと、以上の事実が認められる。
(二) 右株式会社分析センターの撮影結果によると、被告らの販売している昇宇有限公司製の装飾用電灯の端子板とコード線の接続部分が、別紙イ号図面図5ないし7のようになっているとは認められず、他に、右接続部分が、別紙イ号図面図5ないし7のようになっていることを認めるに足りる証拠はない。
(三) 本発明の構成要件(二)及び(三)の「ストッパ」は、その文言、本件発明に係る明細書及び図面の記載(甲一)並びに前記第二の一3認定の本件発明の作用効果からすると、被覆外皮の端面に当接して被覆外皮を位置決めして、位置ずれを防止するものでなければならないというべきである。
本件発明の構成要件(三)の「被覆外皮の端面」は、その文言、本件発明に係る明細書及び図面の記載(甲一)並びに前記第二の一3認定の本件発明の作用効果からすると、別紙本件発明に係る図面図2の12aのように、被覆外皮の面のうち、端子板の側にあり、被覆外皮の外側側面とほぼ垂直の関係にある面を意味するものと解される。また、本件発明の構成要件(三)の「当接」は、構成要件(三)の文言及び前記第二の一3認定の本件発明の作用効果からすると、面に当接することを意味するものと解され、その当接部分の大きさは、第一折り曲げ部の板厚よりも大きくなければならないものである。
(四) 右(一)の株式会社分析センターが撮影した写真から、被告らの販売している昇宇有限公司製の装飾用電灯の端子板とコード線の接続部分における第一折り曲げ部の被覆外皮側の端部が「第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する」とは認められないし、右接続部分が前記第二の一3認定の本件発明の作用効果、すなわち、折り曲げ部の縁部が鋭角な接触になるのを防止して導線や被覆外皮を傷つけたり、被覆外皮に深く食い込んだりするのを防止するとともに、被覆外皮の端面に当接して被覆外皮を位置決めし、位置ずれを防止するという作用効果を奏するとも認められない。
したがって、被告らの販売している昇宇有限公司製の装飾用電灯の端子板とコード線の接続部分に、「第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する形状のストッパ」が存し、前記第二の一3認定の本件発明の作用効果を奏するとは認められない。
その他、被告らの販売している昇宇有限公司製の装飾用電灯の端子板とコード線の接続部分に、「第一折り曲げ部の板厚よりも大きな面で被覆外皮の端面に当接する形状のストッパ」が存し、前記第二の一3認定の本件発明の作用効果を奏するというべき事実を認めるに足りる証拠はない。
(五) したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
二 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一)
<以下省略>